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震災時のとなりの懐中電灯

 夜中、突然スマホが鳴った。
「緊急地震速報です。」
 次の瞬間、大きな揺れが街を襲った。
 本棚は倒れ、食器は割れ、停電で部屋は真っ暗になる。
 しばらくして揺れが収まり、外へ出ると、近所の人たちも不安そうな顔で空を見上げていた。
 街灯も消えている。
 聞こえるのは救急車のサイレンだけだった。
 その時だった。
 向かいの一人暮らしのおばあさんが、小さく呟いた。
「懐中電灯が……どこだったかしら」
 すると、小学生くらいの男の子が、自分のリュックから一本のライトを差し出した。
「これ、どうぞ。」
「でも、君は?」
「ぼく、二本あるから。」
 実は一本しかなかった。
 それを知ったのは、男の子のお母さんだけだった。
 何も言わず、そっと息子の肩を抱いた。
 少しすると、その懐中電灯の明かりに人が集まり始めた。
 誰かがお茶を配る。
 誰かが毛布を持ってくる。
 スマホの充電器を貸す人。
 赤ちゃんをあやす人。
 犬を抱きしめる人。
 小さな光は、いつの間にか人を照らす光になっていた。
 夜明けが近づく頃、おばあさんは男の子に懐中電灯を返そうとした。
「ありがとう。本当に助かったわ。」
 すると男の子は照れくさそうに笑う。
「いいよ。」
「朝になったら、もう見えるから。」
 その一言に、周りにいた大人たちは少しだけ笑った。
 停電は続いていた。
 家も元通りではなかった。
 それでも、不思議と誰もが「大丈夫」と思えた。
 人は、暗闇を照らす光だけでは前を向けない。
「誰かがそばにいる」という安心が、心を照らしてくれる。
 その日、街で一番明るかったのは、懐中電灯ではなく、小さな優しさだった。

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