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世界大戦に対する日本の最終兵器

 世界中で戦争が続いていた。

 ある国はミサイルを撃ち。

 ある国は戦車を走らせ。

 ある国は毎日記者会見で「断固として許さない」と言っていた。

 世界中のニュースは、ため息ばかりだった。

 そんなある日。

 国連で緊急会議が開かれる。

「もう外交では止められない!」

「制裁も限界だ!」

「どうする!」

 会議室は大混乱だった。

 その時、日本代表が静かに手を挙げた。

「一人、います」

 全員が振り向く。

「彼なら止められます」

 ざわつく会場。

「軍人か?」

「特殊部隊か?」

「新兵器か?」

 日本代表は首を横に振った。

「普通のサラリーマンです」

「……は?」

 翌日。

 世界中のテレビが生中継する。

 戦場の真ん中へ、一人の日本人が歩いてきた。

 スーツ。

 革靴。

 黒いビジネスバッグ。

 どう見ても営業マンだった。

 兵士たちは笑う。

「帰れ!」

「ここは戦場だ!」

 すると男は時計を見た。

「すみません」

 深々と頭を下げる。

「五分だけ、お時間いただけますか?」

 兵士たちは顔を見合わせた。

「……五分?」

「はい」

 あまりにも丁寧だった。

 なんとなく聞いてしまう。

 男はバッグからノートパソコンを取り出した。

 プロジェクターを設置する。

 カチッ。

 スクリーンが開く。

『戦争によるコスト試算』

「まずはこちらをご覧ください」

 会場が静まり返る。

「ミサイル一発のお値段ですが…」

 数字が表示される。

 兵士たちの目が丸くなる。

「高っ!」

「さらに燃料費」

「補給費」

「修理費」

「人件費」

「年金」

「インフラ復旧費」

「えーっと……」

 男は電卓を叩く。

「全部合わせると、ものすごく赤字です」

 将軍が固まる。

「赤字……?」

「はい」

「しかも来年度予算も危ないです」

 大統領が青ざめる。

「財務大臣!」

「いや、本当です!」

 世界中がざわつく。

 男はさらにページをめくった。

「こちらをご覧ください」

『平和になった場合の経済効果』

 観光。

 貿易。

 投資。

 雇用。

 数字が右肩上がりになる。

「あれ?」

 誰かが呟いた。

「戦争しないほうが儲かる?」

「はい」

 男は満面の笑みだった。

「めちゃくちゃ儲かります」

 沈黙。

 一人の兵士が手を挙げる。

「質問いいですか」

「どうぞ」

「つまり……」

「撃たないほうがお金が増える?」

「その通りです」

 兵士は隣を見る。

「じゃあ撃つ?」

「いや、やめよう」

「あ、俺も」

「俺も」

 戦車のエンジンが止まる。

 ミサイル部隊も帰り支度を始めた。

 その時だった。

 別の国の将軍が叫ぶ。

「我々には誇りがある!」

 男は静かに頷く。

「もちろんです」

 そしてバッグからもう一枚取り出した。

『社員旅行・温泉プラン』

「……何ですか、それ」

「戦争をやめた記念です」

「一泊二日、夕食はバイキングです」

「カニもあります」

 将軍が部下を見る。

 部下も将軍を見る。

「……カニ?」

「食べ放題です」

「行くか」

「行きましょう」

 こうして世界初の停戦会議は、温泉旅館で行われた。

 卓球大会。

 カラオケ。

 夜は大宴会。

 最初は睨み合っていた各国の代表も、二日目には肩を組んで『上を向いて歩こう』を歌っていた。

 帰国後。

 世界中の記者が日本人へ聞く。

「あなたは超能力者なのですか?」

 男は首を傾げた。

「いいえ」

「では、なぜ世界を止められたのですか?」

 男は少し照れくさそうに笑った。

「日本では、会社の会議で予算を通すほうが、戦争より難しいので」

 世界中が静まり返る。

 そして数秒後。

 大爆笑が起きた。

 その日以来、世界では新しい言葉が生まれた。

「戦争する前に、日本の経理を通せ。」

 不思議なことに、そのルールができてから、世界で戦争は一度も始まらなかった。

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