すね毛会議
「来月から、クールビズをさらに推進します」
朝礼で部長が言った。
「今年はハーフパンツも可とします」
社内がざわつく。
「マジ?」
「最高じゃん」
「夏は助かる」
そんな声が飛び交う中、一人だけ顔色を変えた男がいた。
山田。
営業部三年目。
彼には誰にも言えない秘密があった。
すね毛である。
濃い。
とにかく濃い。
体育館のモップと言われたこともある。
本人は笑っていたが、心は少し泣いていた。
昼休み。
同僚が言う。
「山田もハーフパンツ履くだろ?」
「……いや」
「暑いぞ?」
「俺は長ズボン派なんだ」
必死だった。
しかし、その日の午後。
総務からメールが届く。
『希望者にはハーフパンツを支給します』
しかも無料。
会社ロゴ入り。
社員たちは大喜びだった。
翌週。
オフィスは別世界になった。
涼しい。
快適。
エアコンも弱めで済む。
会社としても電気代が浮く。
誰もが笑顔だった。
……一人を除いて。
山田だけは汗だくだった。
長ズボンだからだ。
部長が心配そうに近づく。
「山田、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
「いや、全然大丈夫そうじゃない」
「これは……修行です」
意味が分からない。
その時だった。
新人が手を挙げた。
「あの」
「山田先輩って、もしかして……」
終わった。
全部終わった。
新人は続ける。
「寒がりなんですか?」
「……え?」
「僕もなんですよ!」
「夏でも長ズボン派です!」
まさかの同志だった。
その一言で空気が変わる。
「俺も冷房苦手」
「私は日焼けしたくない」
「虫に刺されるから長ズボン」
「肌が弱いんだよね」
理由はみんな違った。
誰一人として、すね毛の話をしない。
山田は少しだけ安心した。
……その翌日。
社長が現れた。
ハーフパンツ。
サンダル。
そして――
誰よりも立派な、すね毛。
社員全員が固まる。
社長は笑った。
「暑いからね!」
豪快だった。
誰も何も言えない。
すると社長は続けた。
「人はそれぞれ違うんだから、足もそれぞれだよ」
一瞬静まり返る。
そして誰かが吹き出した。
笑いはあっという間にオフィス中へ広がった。
翌日から、不思議なことが起きた。
ハーフパンツの人。
長ズボンの人。
タイツの人。
スポーツソックスの人。
みんな好きな格好をしていた。
もう誰も、人の足を気にしなくなった。
夏の終わり。
山田は初めてハーフパンツを履いた。
覚悟を決めて出社する。
すると部長が一言。
「山田」
「はい!」
「そのハーフパンツ、どこで買った?」
「え?」
「俺も欲しい」
その日、話題になったのは、すね毛ではなく。
ポケットが多くて便利そうなハーフパンツのメーカーだった。
山田は思った。
人は案外、自分が気にしているほど他人を見ていない。
……いや。
社長のすね毛だけは、しばらく伝説になった。
朝礼で部長が言った。
「今年はハーフパンツも可とします」
社内がざわつく。
「マジ?」
「最高じゃん」
「夏は助かる」
そんな声が飛び交う中、一人だけ顔色を変えた男がいた。
山田。
営業部三年目。
彼には誰にも言えない秘密があった。
すね毛である。
濃い。
とにかく濃い。
体育館のモップと言われたこともある。
本人は笑っていたが、心は少し泣いていた。
昼休み。
同僚が言う。
「山田もハーフパンツ履くだろ?」
「……いや」
「暑いぞ?」
「俺は長ズボン派なんだ」
必死だった。
しかし、その日の午後。
総務からメールが届く。
『希望者にはハーフパンツを支給します』
しかも無料。
会社ロゴ入り。
社員たちは大喜びだった。
翌週。
オフィスは別世界になった。
涼しい。
快適。
エアコンも弱めで済む。
会社としても電気代が浮く。
誰もが笑顔だった。
……一人を除いて。
山田だけは汗だくだった。
長ズボンだからだ。
部長が心配そうに近づく。
「山田、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
「いや、全然大丈夫そうじゃない」
「これは……修行です」
意味が分からない。
その時だった。
新人が手を挙げた。
「あの」
「山田先輩って、もしかして……」
終わった。
全部終わった。
新人は続ける。
「寒がりなんですか?」
「……え?」
「僕もなんですよ!」
「夏でも長ズボン派です!」
まさかの同志だった。
その一言で空気が変わる。
「俺も冷房苦手」
「私は日焼けしたくない」
「虫に刺されるから長ズボン」
「肌が弱いんだよね」
理由はみんな違った。
誰一人として、すね毛の話をしない。
山田は少しだけ安心した。
……その翌日。
社長が現れた。
ハーフパンツ。
サンダル。
そして――
誰よりも立派な、すね毛。
社員全員が固まる。
社長は笑った。
「暑いからね!」
豪快だった。
誰も何も言えない。
すると社長は続けた。
「人はそれぞれ違うんだから、足もそれぞれだよ」
一瞬静まり返る。
そして誰かが吹き出した。
笑いはあっという間にオフィス中へ広がった。
翌日から、不思議なことが起きた。
ハーフパンツの人。
長ズボンの人。
タイツの人。
スポーツソックスの人。
みんな好きな格好をしていた。
もう誰も、人の足を気にしなくなった。
夏の終わり。
山田は初めてハーフパンツを履いた。
覚悟を決めて出社する。
すると部長が一言。
「山田」
「はい!」
「そのハーフパンツ、どこで買った?」
「え?」
「俺も欲しい」
その日、話題になったのは、すね毛ではなく。
ポケットが多くて便利そうなハーフパンツのメーカーだった。
山田は思った。
人は案外、自分が気にしているほど他人を見ていない。
……いや。
社長のすね毛だけは、しばらく伝説になった。