謎の宇宙船

 黒い空間の中で白い点が無限の様に広がっていた。その広がる無限の空間の中に、一つの宇宙船が目的地に向かって進んでいた。それはまるで、大海に浮かぶ木の葉の様であった。
 宇宙船の向かう先は、ソマリナ星。その星に向かう理由は搭乗している男自身にも明確には分かっていなかった。ただ、そこに向かわなければならい、そんな気持ちだけが募っていた。
 男は自分の星から宇宙船で出発したはずなのだが、その記憶も曖昧に思えた。それは、記憶が欠けていると言う次元ではない。例えるならば、自らの人生を書き綴っていたノートが消しゴムで消され、新たに別の要素が書き加えられてしまった感覚なのだ。
 理由はある程度わかっていた。この宇宙船にはコールドスリープの機能があり、男はその機能を使い、長い眠りについていた。目覚める際に何かしらの不具合が起きたのだろう。
 男は宇宙船の運転席の椅子に座りながら、外の様子を写しているモニターを覗き込む。そこには、真っ黒な空間が広がっていた。
「ソマリナとはどういった星なのだろう。誰かに。そう、愛しい者に会うために向かっていたと思ったのだが…」
 男が呟くと宇宙船が反応を示す。
「ソマリナには人間は居なく、動物だけが暮らしている星の様です」
 宇宙船内に機械音声が聞こえてくる。大切な人がそんな星が好きだった気がする。
「宇宙船。教えてくれ。俺は何のためにソマリナに行く」
「リーナ様に会いに行くためではないのですか? 颯真様が言われていたことです」
 宇宙船が答えで、彼は自らの名前が颯真であることを思い出す。ただ、どうにも苗字がはっきりしない。
 ただ、リーナという名前は彼の記憶に宝石の様に存在していた。そう、彼女のためにソマリナに向かうのだ。リーナの身に危険が迫っていたるはずだ。救えるかは分からないし、会えば状況が悪化する可能性さえある。だが、颯真は行かなければならない。
 そんな事を考えている時だ。突然、宇宙船が大きく揺れ始める。
「スペースデブリが宇宙船に衝突! フリーエネルギー減少。どこかで漏れているのかもしれません」
 颯真は改めてモニターを見る。そこにはフリーエネルギーと書かれている、メーターの様なものがあったが、それが、勢いよく減少していた。燃料が漏れているということだろうか。
「近隣の星に不時着を推奨します。このままでは宇宙船はまもなく操作不能に陥ります」
 宇宙船の言葉に颯真は血の気が引く。このままでは、ソマリナに着けないだけでは無い。自らの命も危ないだろう。しかし、どうしても、緊急時の操作が思い浮かばない。自分はそれなりの知識を持って宇宙船に乗り込んでいたはずだ。そうにも関わらず解決方法を導けずにいた。
「おいおい。大ハプニングだね。と、とりあえず、どこかに不時着してくれぇ」
 颯真の命令に従うように、宇宙船は近くの星に航路を変える。

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