神楽財閥へ

 日も落ちた頃、この星に最初に訪れた廃墟の場所に、四人の人影があった。それはラズ達の姿であった。そこには、彼らに加え、刑事の姿もあった
「神楽財閥から連絡は?」
「特に無いですね」
 心配そうな慶次にラズが答える。彼らは食事を終えたら、すぐにこの場所に来たのだが、未だ田中からは連絡が無かった。
「早く田中殿来ないかなぁ」
 武蔵が腕を前に組みながら小刻みに震えていた。まだ、グレンの魔法をかけてもらったのに寒いというのだろうか。ただ、ラズとしても田中からの連絡を心待ちにしていた。今、彼がどこにいるのか、全く分からないためだ。
 そんな時、スマートフォンが再び振動する。彼がポケットから、それを取り出し、視線を向けると「上を見てくれ」と書いてあった。
 指示に従いラズが上を向くと、そこには真っ黒の平べったい飛行機が存在していた。それは、ソマリナの頃にテレビで見た、ステルス機の様な形をしたものだった。
 その飛行機は、ラズ達と少し離れた場所に着陸する。慶次が懐に手を入れたかと思うと、そこから、拳銃の様な物が顔を出して来る。
「物騒なものを出さないで」
「しかし、何が出てくるか分からんだろ? まさか飛行機とは!」
 慶次は動揺しているようでヒステリックな声を上げるが、ラズも気持ちは同じであった。飛行機で移動するほどの場所に田中は居るというのだろうか。
 少しすると、飛行機の入り口らしきところが開く。
「神楽財閥の飛行機です。そちらからお乗りください」
 飛行機は機械音声でこちらに呼びかけて来る。。
「何なのあれ!?」
 クレアが驚愕した顔をしていた。それはそうだろう。彼女は飛行機すら見た事がないのだろうから。ラズは彼女に対し、空を飛ぶ機械だと言うことを説明する。
「乗って平気なものなのか・・・?」
「でも、あれに乗らないと、田中さん、いや、神楽さんには辿り着けませんよ」
 ラズの言葉に慶次が首を縦にふる。
「君らは私の後に着いてきてくれ」
 慶次は飛行機に向かい始める、彼の先導で一行は飛行機に向かい歩き始める。
「鬼が出るか蛇が出るか」
 慶次が独り言の様に呟く。
 飛行機の前まで来ると、三人の体は宙に浮き、吸い込まれる様にその開いている入り口に吸い込まれて行く。
 ラズ達が全員、飛行機の内部に入ると、入り口はゆっくりと閉じる。
 飛行機の内装は豪華なものであった。赤い絨毯の様なものが敷かれており、小さな冷蔵庫の様な物も存在していた。真ん中にあるテーブルには、ワインの様な物があった。
「ふん。飛行機なんてエネルギーを膨大に使うものを。金持ちは自分のことしか考えていないな」
 慶次が吐き捨てる様に言う。
「うわー。凄いね。こんな物が宙を浮くの?」
「うん。そうだけど、こんな豪華な飛行機は俺も初めてだよ」
 ラズがクレアに飛行機の説明をしていると、窓の外の景色が変わり始める。彼はそれに驚きを覚える。着席合図も無く離陸するなどあり得るものなのだろうか。しかし、離陸することを感じることなく、機体は既に宙に浮いている様に思える。
「到着までは三十分ほどです。短い間ですが、お寛ぎください」
 三十分となると、この飛行機はどこまで行くのだろうか。ルーニ星の文明ならば、その時間でも長い距離を飛べるのだろうか。
「むしゃむしゃ、しかし、鉄が空を飛ぶとは凄いでござるな」
 武蔵が来るまでの道中で、慶次に購入させた、おにぎりを頬張っていた。
「君らは酒を飲めるか? 良ければ、飲まないか? 少量なら、少しは緊張が和らぎそうだ」
「酒は嫌いではござらん!」
 武蔵が元気よく答えると、慶次はテーブルに置かれているワインにスマートフォンを当てる。
「毒は入っていない様だな。まあ、招待する人間を毒殺はしないか。しかし古臭いな。オープナーで開けるタイプのワインか。クラシック好きな金持ちの考えそうなことだ」
 慶次はワインの近くにある栓抜きの様なもので、ワインのコルクを抜くと、近くにある複数のコップに注ぎ始める。全てのコップは順々に赤く染まり出す。
 ラズの脳裏に、マイクの言葉が浮かび上がってくる。酒の味は好きではなかったが、挑戦してみるのも悪くない。
「全員、コップを持ってくれ」
 慶次が言うと、全員がコップを持つと、彼が腕を少しだけ上げる。
「この星を救えることの前祝いとして、乾杯」
 慶次はコップに口を当てる。ラズもそれを真似して、一口飲む。やはり、酒の味は好きになれなく、ぶどうジュースの方が好みであった。
「あ、意外と美味しいかも」
 ラズの横にいる、クレアが言う。彼女が言うのであればもう少し挑戦しても良いかもしれない。
 武蔵の方を見ると、彼は一気に飲み干している様であった。ワインとはその様に飲むものであっただろうか。
「うん。味はよく分からんが行けるでござるな」
「おいおい。ビールじゃないんだから。一応、これから交渉があるから、一杯だけだからな」
 慶次が呆れた顔で言うと、武蔵が物欲しそうな顔をしていた。
「あっ、そういえば、慶次殿もサイボーグというものでござるか? からくりの身体でも飲食はできるのかな?」
 言葉を選ばない武蔵らしい発言である。
「まあな。物を食べる事でエネルギーを得ているんだ。その辺りは生身と同じさ」
 慶次の回答に、ラズは疑問を覚える。田中は物を食べていなかった。彼だけ、別のエネルギーを使用していると言うのだろうか。
「サイボーグ技術も如月颯真さんの遺したものなのですか?」
「この星の科学の礎が、彼の遺したものなのは間違いない。もう、歴史上の人物さ。ただ、彼がいつ生まれて、いつ亡くなったかは不明なままだけどね」
 どうやら、歴史に残る様な人物らしい。颯真とは地球ではなく、このルーニ星の人物なのだろうか。
 その時、飛行機内にアラームのような物が鳴り響く。
「到着します」
 飛行機の電子音声が鳴り響く。ラズは窓を見たが、いつの間にか、海の上を飛んでいた様で、どこにも到着する様な場所はなかった。
「どこに着陸するんだ?」
慶次も気づいたらしく、窓の外を見ていた。
 少しすると、レーザーの様な物が海に照射される。
 すると、何もなかった場所に島の様な物が現れる。
「こんな場所があったとは。・・・君らの安全は私の命に変えても保証させてもらうよ」
 慶次は自分の胸元に手を当てる。

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