最悪の出会い
リーナと颯真はショッピング街にいた。そこは、彼女達の地元とは違い、多くの人々の姿がそこにはあった。多くのデパートが存在し、彼らはその中の一つの中にいた。
このショッピング街は颯真の家から距離があるため、車で移動して来たのだ。万年金欠病の二人ではあったが、たまには少しの贅沢をと颯真が提案してくれたのである。
リーナの目の前には機械の様なものがあり、それが様々な女性用の服の映像が宙に映し出されていた。彼女はその中のピンクのスカートに触れる。
すると、彼女が履いていたスカートが、表示されていたピンク色のものに変わる。それは、コンピュータが出力する、投影に過ぎなかったが、それに触れる事で、まるで本物のスカートの質感を感じることができる。
「似合う?」
リーナがモデルの様なポーズをとる。
「はは。似合うよ。た、ただ、ズバリ、お値段は!?」
颯真が震える声を上げる。
「この後、高級な食事に行くのに大丈夫かなー?」
リーナがふざけた口調で言うと、颯真が小さく悲鳴を上げる。もちろん、彼女はそんな所に行くつもりはなかった。彼と一緒ならどこでも美味しい食事になるはずだ。
リーナは一通り、服を見終わった後に、颯真の手を握り、食事に向かい歩き始める。このデパートの中に美味しい定食屋があったはずである。
二人が歩いていると、近くに宇宙の映像が映し出されていた。そこには、土星や木星が表示されていた。
「リーナさ。遥か遠い宇宙の果てに、動物達が仲良く暮らす星があったら行ってみたいと思う?」
颯真が歩きながら話しかけてくる。
「えー、素敵な星ね」
「作れるかもしれないんだよ。そんな、楽園をさ。赤い結晶が言っていた」
「結晶が?」
リーナが怪訝な顔をする。当然だが、結晶が言葉を発するわけがない。
「はは、多分、空耳だね。でも、そんな星を作れたら素敵だと思わない?」
「そうね。でも、人は神様じゃないわ。星を作るなんて出来る訳ないよ」
リーナが答える。確かに素敵な星である。
少しの間、デパート内をリーナ達が歩いていると、颯真の肩に誰かの肩がぶつかる。それは、長髪の茶髪の男であり、品の良い整った顔立ちをした男性であった。質の良い白いシャツと黒いズボンが似合っていた。
「あっ、失礼」
相手の男が謝罪すると颯真も頭を下げる。
「あれ、如月颯真さん?」
更に男が声をかけてくる。
「ん? こんな色男と知り合いだったかな? 申し訳ない。どちら様でしょう?」
「大学が一緒だったのを覚えていないでしょうか? 神楽連です」
神楽という男が名乗ると、颯真が両の手を叩く。
「ああ、大学の先輩の神楽さんね。久しぶりですね」
颯真の言葉でリーナも思い出す。神楽財閥の御曹司が大学の先輩にいたと、彼が話していたからだ。人との付き合いを苦手とした颯真は交流を持とうとはしなかったが、神楽は彼によく声をかけてきたと言っていた。
「大分雰囲気が変わりましたね」
「愛の力ってやつかな」
颯真の言葉に反応する様に神楽はリーナの方に視線を向けてくる。それは、何かを観察している様に思えた。
「学会で貴方の話題を聞くことになると思っていたのですがね」
「そんな大層な人間じゃ無いですよ」
「またまた、ご謙遜を。…あ、そうそう」
神楽はポケットから名刺入れの様なものを出す。今時、その様なものを持っている人間も珍しい。彼はその中から、名刺を取り出し、颯真に渡してくる。
「嫌いじゃないけど、スマホで送れるだろうに、古風なものを出すね。・・・神楽研究所?」
リーナも名刺に視線を向ける。確かに、神楽研究所と書かれている。何を研究しているのだろうかは分からなかったが、これは颯真の能力を活かせる良い出合いになるかもしれないと感じる。
「何を研究しているの?」
「動物の品種改良ですよ」
神楽の言葉にリーナは一気に嫌な気持ちになる。彼女は動物の品種改良を好ましいとは思っていなかった。人が手を加えることで苦しんでいる動物もいるだろう。しかし、それに反して、颯真は興味を持っている様に思えた。
「なるほど。それって、ある事に耐性を持った動物を作り出すこともできるかな?」
「ある事? それが何かは分かりませんが、貴方の能力が生きるはずですよ。これも出合いです。是非、貴方にも参画してもらいたい」
リーナは嫌な予感がしていた。ある事とは魔法の事を指すのではないだろうか。この研究に颯真を参加させるのは良い結果が生まれる様に思えなくなっていた。
「貴方を高待遇で雇いたいと思っています。給料はいいねで払いますよ。先程、二人で話されていた宇宙旅行も行ける様になりますよ」
神楽はどこか人を不快にさせる話し方ではあった。リーナは、尚更参加させたくなくなっていた。
「それでは、ご連絡をお待ちしております」
神楽はそれを最後に、どこかに立ち去ってしまう。