魔物「セシル」誕生
「セシル。聞こえるかい?」
その言葉に反応する様にセシルは目を開ける。
そこは、家の中の様であった。モニターの様なものが目に入ってき、周りには多くの本棚が存在した。全てが電子化されたこの世界では珍しい光景であった。そんな部屋で、彼はテーブルの上に座っていた。
そして、セシルの視界には、茶色の髪の男性と、青い髪の女性がいた。彼らは何者であろうか。
「ここは?」
「ここは、俺たちの家さ。君もこれからは、ここで暮らすんだよ。俺は颯真。彼女はリーナだ」
男性は颯真というらしい。女性の方はリーナであろうか。見たところでは仲睦まじい夫婦に思える。
「この子が新しい家族なのね」
リーナと呼ばれていた女性が言う。どこか暖かさを感じる女性だ。
「ああ、もう、魔物は必需品になる」
「物みたいな言い方はやめて」
颯真の言葉にリーナが非難する。確かに物扱いは酷い話だろう。ただ、自らは何者なのだろうか。セシルは自らの全身を見渡すが、彼らとは様相が違う様に思える。まず、体の大きさが全く違う。彼らの顔くらいの大きさしか無いだろう。
「セシル、リーナに回復の魔法を頼む」
颯真が命令すると、セシルの意識が希薄になり、己の意思とは関係なく、リーナに手を向ける。すると、彼女の身体が暖かい光に包まれる。
「え? どうなったの?」
「スプライトは主人が名前を呼んで命令すれば、意思に関係なく、それを聞くのさ」
「何だか残酷ね」
「危険防止のためさ」
リーナと颯真が会話をしていると、セシルの意識は元に戻ってくる。
「それより、病はどう? 治ったかな?」
「いえ、そんなことはどうでも良いことよ。それよりも世界のことを考えて」
何とも強い女性だと、セシルは感心する。恐らく、この女性は病に侵されているのだろう。しかし、それよりも世界の事を案じている。セシルが同じ達がなら、そんな事が出来るだろうか。
「とりあえず、ここ周辺を周りから気づかれない様に隠匿の魔法を施したよ」
「それなら、その魔法を被害に遭っている他の人にも使わせてあげた方が良いんじゃない?」
「出来ないんだ。この魔法は特殊なんだ。オリジナルの赤い結晶が必要だ。これは、ここに一つしかない」
「なら、結晶も貸してあげればいいんじゃないの?」
「これを使うには代償がいるんだよ。とんでもない代償がね。呪われた結晶さ」
颯真が悲しさを含んだ笑みを浮かべる。しかし、ここで、セシルが疑問を持つ。彼達はどんな代償を払って、隠匿の魔法を使うつもりなのだろうか。
「どんな代償が必要なの?」
「・・・それは教えられない」
颯真はそれだけ言うと、口を閉ざしてしまう。リーナは何度も追求していたが、彼がそれに答えることはなかった。代償とは何の話なのだろうか。
「ただ、結局、人々は逃げて暮らすしかないのね。動物達は大丈夫なのかしら」
「魔力は植物には影響はない。動物達はお偉方の倫理に任せるしかないな。動物がいなくなれば、人も死滅するのだから。それに、打開策が無いわけじゃないさ。青い結晶を使えばね」
セシルには、いまいち内容が飲み込めなかった。彼にある記憶には、基本的な知識と、彼らが主人であること、体内にある赤い結晶を使用し、魔法という物を使えると言うものしか存在しなかったためだ。
颯真の説明を聞くと、宇宙の遙彼方に青い結晶というものがあり、それは膨大な魔力を蓄積できるものという事であった。それを彼が所持しているオリジナルの赤い結晶と併用する事で、とんでもない魔法を使う事ができるらしい。彼らには様々な問題が山積されていれていそうであるが、それがあれば、解決できるのではないだろうか。
ただ、セシルはそこで単純な疑問が浮かんできた。そんな宇宙の彼方にある結晶について、何故、そんなに詳しいのだろうか。
「それも研究の成果で分かったの?」
それはリーナも同じ様で、彼女が颯真に問いかける。
「いや、違う。オリジナルの赤い結晶が教えてくれたんだ」
「結晶が話しかけてくると言うの?」
リーナの疑問は当然であった。結晶が話しかけて来るわけがない。当然、セシルの体内にある赤いkっしょうが話しかけてくることなんてことは無い。
「とりあえず、その情報を人知るしか無い。魔法の力も借りて、急いで、宇宙船を完成させるさ」
颯真はそう言うと、セシルに近づいてくる。
「相棒。これからも、よろしく頼むよ」
颯真はセシルに向けて、握った拳を向けてくる。彼はそれに応える様、彼の拳に自らのものを軽く当てる。