神楽の思惑
神楽研究所の前に、一台の車が止まり、その中から、リーナと颯真が出てくる。
颯真が連絡を入れたところは、本日は神楽は研究所にいるらしい。そのため、彼らはその足で、ここまで来たのである。
リーナ達が研究所に入ると、前と同じ様に受付の女性の顔が視界に入る。颯真は受付の女性に歩み寄っていく。
「如月だ。神楽さんと会いたい」
「お待ちしておりました。神楽さんはスプライトルームにいますよ」
スプライトルームとは、初めて研究所に来た際にスプライトが過ごしていた部屋の事だ。颯真は受付に礼を告げた後に、そこを抜けていく。
何故、応接室などではなく、スプライトルームを待ち合わせにしたのだろうか。
リーナ達は廊下を歩き、スプライトルームに向かう事にする。
しばらく歩くと一際大きな扉の前に着き、リーナ達はその部屋に入室する。
すると、前回同様に外に出た様に木々が立ち並ぶ風景が広がったが、スプライト達が全く存在しなかった。代わりに小さな人形の様なものが転がっていた。
その人形は青い顔に、マントを羽織った、まるで魔王の様な様相であった。
「あの人形は?」
リーナが人形を指差すと、颯真が驚いた顔をする。
その時、スプライトルームの扉が再度開く。そこには、神楽と牡丹の姿があった。
「貴方にプレゼントを用意しておきましたよ」
神楽が人形に視線を向けながら言う。
「あれは、魔法特化型のスプライトか」
「その通りです」
その言葉に颯真が神楽に駆け寄り、彼の胸ぐらを掴む。慌てて、リーナが彼を止めるために駆け寄る。
「颯真やめて」
リーナが止めると、颯真が神楽の胸ぐらから手を離すが、彼の怒りは収まらない様であった。
「何故! 作った。あれは地球に害を成すぞ」
地球に害を成すとはどういったものだろうか。それに、スプライトと言う事から、あそこにあるものは人形ではなく、生物だと言う事だろうか。
「なら、何故、貴方は設計されたのですか?」
「そ、それは平和的活用を望んで」
「本音は違うでしょうが、そう言う事にしておきましょう。なら、人類も平和活用してくれるでしょ?」
「駄目だ!攻撃的な魔法で魔力が散乱する事が分かったんだよ。既にそれは伝えたはずだ」
魔力が地球に散乱する危険性があると言う事だろうか。人に有害な魔力が散乱するなんて由々しき事態だろう。
「それは綺麗事でしょ? 貴方は気付いてしまった。スプライトが使う魔法では愛しき人を救えないと」
「それは。。。」
自惚れかも知れないが、愛しき人とはリーナの事だろう。
「愛しき人を救う?」
「貴方は病に侵されている。それを治すために彼はスプライトを生み出したんですよ」
以前、胸が痛い時があった。病とはそれの事を指しているのだろうか。しかし、定期検診を受けても、異常はなかったはずだ。
「理由はどうでもいいだろ。とりあえず、人類に災いが訪れるものなんだ。止めるんだ」
「分かりました。この計画は中止します。ただ、この魔法特化型のプレゼントは受け取ってください。貴方なら、その方を救うためだけに使うでしょ」
神楽は笑みを浮かべる。彼の本心は何なのか分からないが、リーナは自分のためにそんな危険なものを使う事には納得がいかなかった。