過去への入り口
神楽財閥が所有するリゾート地の中央には小屋が存在した。一見何の変哲もない木造の小屋だが、その内部は技術が詰め込まれていた。
そんな小屋の中にラズ達は居た。
この小屋の中には空調が効いていた。恐らくは、フリーエネルギーの力で動いているのだろうか。
壁際には本棚が複数個あり、慶次がその本棚の前にいた。
「何だか、聞いたことがある言葉がタイトルとして並んでいるな」
「恐らくは、神楽に言われて、颯真が書き残した物だろう。地球の技術をこの星に転用するためにな。悪い所も含めて、地球の複製でも作りたいのだろう」
「どうにも慣れないな。子供用玩具にAIが入っているんじゃないのか?」
慶次の言葉に、グレンは憤慨する。
「悪かったよ。ところで、複製とはどう言うことなんだ?」
「奴は地球の複製を宇宙中に広めたいと話していたことがある」
「そんなことが可能なのか?」
慶次が驚きの表情を浮かべる。それはラズも同様であった。星の創造など出来るものなのだろうか。しかし、思い当たる節がない訳ではない。ダリア星も侍の星も地球に似たところが多々あると言われていた。
「魔法とある技術を使えば可能だ」
「ある技術とは?」
「知る必要はない」
慶次の問いをグレンが一刀両断する。すると、慶次は、また本棚に視線を向ける。
ある技術とはスプライトの事ではないだろうか。そんな事をこじろうと話していた様に思える。
推測に過ぎないが、スプライトは生物を生み出す技術なのだろう。それらを地球に近づく様に導いていけば良いのだ。自分達に不都合なところは魔法の力を借りれば良い訳だ。
「この、済が入っていないものは? 長寿技術とかスプライトとか書いてあるが」
「くだらない技術だ。お前らの様なまともな人間が見る様な物では無い。あの男も、その技術をこの星に広めるのは愚かしいと考えたのだろう」
グレンが語尾を強く言う。これ以上、彼が答えてくれないと感じたのか、慶次がラズ達の方に視線を向けてくる。
「君達、すまない。私があんな話を持ち出したからだな」
慶次が頭を下げる。
「慶次殿のせいではござらんよ。拙者達だけで行っても結果は同じでござる」
ラズも武蔵と同じ感想であった。田中改め、神楽と会う事は慶次に関わらず起きていた事だろう。そして、結果は同じだったに違いない。
どちらにせよ、神楽の言う通りに動く運命だったのだ。数日間で準備をし、地球に向かわなければならない。神楽の命に従い、地球の颯真の家に向かわなければならない。そこに、オリジナルの赤い結晶とやらがあるらしい。
しかし、この神楽蓮という男は何者なのだろうか。神楽財閥の御曹司で、文明の力を借りて、一千年以上も生きる男であり、ラズ達の前に田中と名乗り現れた。その位しか情報がなかった。
「神楽蓮っていう人とは過去に何があったの?」
ラズがグレンに問いかけると、彼は少し険しい表情をする。
「ラズよ。あやつは人類が好きではあるのだ。そして、人々を幸せにしたいと本気で思ってはいる。今度は青い結晶を使って、地球とこの星を救おうとしている。ただ、それは、お前にとっては不幸な結末になるかもしれないのだ」
グレンはそう言った後に、皆に視線を向ける。
「・・・すまない。ちょっと、ラズと二人にさせてはくれぬか?」
「え? でも、私達も話を聞きたいな。ラズに関わることじゃないの?」
クレアがどこか不安そうな表情をしていた。
「だからこそ、二人で話させてほしいのだ。折を見て、お前らにも伝える」
グレンが言うと、クレア達は小屋の出入り口に向かう。
「ラズ。どんな事があっても私は味方だからね」
クレアはその言葉だけ言い残し、外に出ていく。彼女と会えた事は、ラズにとっては幸運だったであろう。
しかし、今からグレンが話す事は聞きたい事であるが怖くもあった。例え、クレアが味方をしてくれても耐えきれないことかもしれない。
「皆には伝えられない事なの?」
「そうだ。特にクレアには話しづらい内容があるのだ。ただ、地球に行く事が決まってしまった以上は、お前は知らないとならない。辛いことかもしれんが、それでも聞くか?」
薄々だが、ラズは気付いていた。自らが普通の人間ではない事を。彼は首を縦に振る。
「すまない。初めはな・・・。何も知らないお前を地球に連れて行ってしまおうと考えていた。リーナの願いを叶えるためにな」
グレンがそこで上を向く。
「まあ良い。順を追って話そう。私が生まれる前のリーナから聞いた話も混ざっているから、あやふやな部分もあるかもしれんがな」
グレンは話し始める。