残酷な事実
ラズとクレアが屋上の扉を出て、階段を降りていく。グレンが言うには、本来はルーニ星の様なエレベータがあったのだが、今では動作しない様で、非常階段を使うしか無かった。しかし、彼はあの気味の悪いエレベータよりも、こちらの階段の方が落ち着ける様に思えた。
その時、階段を登ってくる音が聞こえて来たかと思うと、そこには階段を登ってきている神楽の姿があった。
「そろそろ、交代ですよ」
ラズはグレンの過去の話を聞いてから、ずっと、神楽と二人っきりで話がしたかった。他の者、それこそ、グレンにすら聞かれる事なく話したかったのだ。
「クレア、ごめんだけど、ちょっと外してくれないか」
ラズがクレアに言うと、彼女は神楽と入れ替わる様に、階段を降りて行く。
「何故、貴方はフリーエネルギーを消したいのですか?」
ラズは疑問に感じていた。彼はどちらかと言えば、フリーエネルギーを求めている人間のはずだ。その証拠にルーニ星にすら、その技術を広めている。
「ラズ。今こそ、私は神楽だが、田中の時の記憶が無くなったわけじゃないんだよ。他人行儀に話さなくていい。ただ、屋上で話さないか?」
神楽が言うと、二人は階段を登り、屋上に出ていく。先ほどの時と同様に美しい星空が広がっていた。屋上に出ると、神楽は先ほどまで、ラズとクレアが座っていたソファーに座り込む。
「そうそう、何故、私がフリーエネルギーを消したいかだったね。簡単だよ。それがリーナさんが望む颯真の願いだからだよ」
神楽の話はラズには理解できなかった。実際はどうであれ、リーナが望んでいた颯真とはそういう男なのだろう。しかし、それが神楽がフリーエネルギーを消す事の理由になるのであろうか。
「分かり辛かったかな。要は私は颯真の願いを叶えたいんだよ。彼の理想とはリーナさんが喜ぶ事だからね」
「貴方は颯真さんを利用しているだけだと思ってた」
「君もグレンさんも誤解しているよ。私が颯真に拘ったのは彼の能力だけにじゃ無い」
「じゃあ、貴方に拉致された颯真さんはどうなったの?」
「グレンに色々聞いたのかな? 私が拉致して殺した。そう言えば満足かい?」
ラズの最悪の想定がそれであった。颯真は神楽の手にかかり、ソマリナ星に来れなかった。残酷な結果ではあるが、それが一番辻褄が合う。しかし、それでは、先ほどの神楽の言葉の意味が分からなくなってしまう。それは何かを隠している様に思えた。
「しかし、それが彼にとっての救いだったんだよ」
「死が救いなんてある訳ない」
ラズが強く否定する。自らにその運命が迫っている事から感情的になってしまったのかもしれない。少なくとも、彼は死にたいと思ったことなどないし、颯真も違うはずだ。
「颯真はね。少年時代にオリジナルの赤い結晶に願ったんだ。英知が欲しいとね」
確かに、グレンの話では、颯真は幼い頃は、お世辞にも頭が良くなかったらしい。ただ、それは、リーナと出会ってからの彼のイメージとは掛け離れていた。
「オリジナルの赤い結晶は、その代償を求めた。彼が愛した人の命をもらうと」
それを聞いたラズは目を丸くする。何故、その様な愚かしい事をしたのだろうか。英知がつまらない事と言う気はなかったが、愛する者を捧げてまで欲するものとは思えなかった。
「何故、そんな代償を払ってまで!?」
「当時の颯真には愛する人なんか居なかったんだ。彼はその当時に愛した者が対象だと思ったのだろう。その代償が生涯付きまとうとは思わなかったのだろうね。まあ、悪魔の囁きとは姑息なものだ。そして、その犠牲者が・・・」
「リーナさん・・・」
ラズの中で何かが繋がった気がした。颯真はその事で苦しんできたのだろう。愛が深まれば深まるだけ相手を傷つけてしまうのだ。しかし、何故、神楽がこんな事情を知っているのだろうか。
「何で、貴方がこんな事を知っているの?」
「唯一心の通じ合える人間だったからじゃないかな? だから、そんな、私だからこそ、颯真の願いを叶える。苦しんでいる人を救うためにね」
神楽の言う事が本当だとは思えなかった。珍しく、ラズは人に対し嫌悪感を持っており、彼と通じ合える人間なんかいないと感じていたからだ。
ただ、事実、神楽の言う様にフリーエネルギーを消すしか、人々を救う方法は無い。例え、嫌いな人間からの提案だろうが、それを飲むしか手はない。
「俺の犠牲でその願いは叶うの?」
「その通り。人類を守るために犠牲が必要ならやむを得ない。私なら喜んで犠牲になるよ」
神楽の言葉は正論ではある。例え、ラズがこの世から消えようとも、その犠牲があれば多くの人間が救われるかもしれないのだ。しかし、好意を持った人達と会えなくなるという、悲しい事実が待っている。グレン、武蔵、慶次、皆、好感を持てる人々である。そして、クレアと会えなくなるのは心が張り裂けそうになる思いだ。
「まだ、君は迷っているように思える。ルーニ星での惨状も知ったのにね」
「迷ってなどいないよ。俺はオリジナルの赤い結晶を手に入れて、魔法を消すよ」
ラズはそう言いながらも暗い表情をしていた。
「それに、覚悟を持たなければならないのは君だけではない。私もだ」
「どう言うこと?」
「私のこの機械の身体はフリーエネルギーで成り立っている。それが消えれば、私も生きてはいられない」
目論見はどうであれ、人類のために神楽は命をかけている。それに対し、自らは利己的な理由で迷っている。これは、恥ずべき行為ではないだろうか。
「もし、君が悩んでいるなら、私がシナリオを書こう」