叶わなかった想い
西暦二千五百四十年。
ソマリナは地球によく似た星であった。地球同様の自然の恵みと、宇宙船のプログラムのおかげで、セシルとリーナは食料に困ることはなかった。
ただ、当然、文明という文明は存在しなかった。当たり一面に木々が生い茂り、夜は美しい星空が広がっていた。リーナもそれには満足しており、セシルも地球よりも好ましい環境だと感じていた。
そして、何よりも驚くことに、この星には既に動物達が存在していた。可愛らしい犬や猫達はリーナの心を癒している様に思えた。セシルとしても彼らとの触れ合いは嫌いでは無い。
そんな中で、宇宙船が建て木造の小屋の中で、セシルとリーナは暮らしていた。外観こそはレトロな物だが、内部には空調が効いていたりと、それなりの設備が存在していた。恐らくは、電力ではなく、フリーエネルギーで稼働しているのだろう。
そんな、小屋のベッドに寝ているリーナの横の机で、セシルは本を読んでいた。
「颯真、来ないね」
リーナが言う通り、颯真がこの星に訪れてくる気配は全く無かった。
ただ、セシルが探索し、青い結晶は無事に入手できた。既にそれなりのエネルギーが溜まっているのだろうか、大きなエネルギーを感じた。
「ああ、きっと少し苦戦しているのだろう。終われば、すぐに来る」
セシルは返答するが、気休めだと感じていた。颯真は来ない。そんな気がしていた。セシルはリーナに颯真が来るかもしれないと言った事を悔いていた。
セシルは颯真と神楽の会話に疑問を持っていた。颯真はリーナと距離を置きたがっている。それは地球にいた時から感じていた。彼女と一緒に居たい反面で、どこか離れたがってもいたのだ。その理由が何なのか、セシルにもいまいち分からなかった。病に倒れた妻を見たくないとか言う理由であったら、彼としては許せなかった。
ただ、リーナの身体は日に日に悪くなっていた。胸に激痛が走るようで、胸を抑えたまま、意識を失った事もあった。そのため、最近では殆どベッドで寝込んでしまっている。
そこで、宇宙船に診断を頼んだところ、原因不明だと言う事であった。セシルの魔法でもその症状は改善しなかった。それどころか、悪化している様にさえ思えた。これは、本当に只の病なのだろうかと、グレンは疑問に思うことがあった。
「青い結晶にフリーエネルギーは溜まって来たかな?」
リーナのこの言葉は毎日言われているように思えた。既に大移動するほどのフリーエネルギーは溜まっているもしれない。
「リーナよ。青い結晶に、魔力は溜まっておる。これでお前の身体を治す魔法を使いたいのだが。私の体内にある赤い結晶でも、ある程度の魔法は使えるはずだ」
セシルの申し出にリーナが首を横に振る。
「この星に近づいてきた時は私も動揺していたわ。青い結晶を移動のために使おうなんて・・・。私利私欲に使おうとしていた。そんな事を颯真は望んでいないよね」
颯真の考えと、彼女が考える彼の望みは違うように思えたが、移動を諦めてくれたのは、セシルにはありがたかった。
「この結晶に溜まっているフリーエネルギーは地球を救うために使うわ」
「頑固も程々にしろ」
セシルは言うが、魔法を使えない理由はリーナが拒絶している以外にもあった。神楽と会った時に、颯真が青い結晶を駄目元だったと言った事だ。青い結晶で魔法を使用して効果が期待できない場合、全ての希望も、彼女の目的も粉砕してしまうことになる。
「それに、颯真も地球を救うためのみにフリーエネルギーを使いたいはず」
「いや、それは違うぞ。颯真はお前を治す魔法を使う事を望んでおった」
「・・・そうかもしれないね。でもね。私は颯真にそういう人であって欲しいの。全ての人や動物に対して情を持っている人と」
それは、セシルも感じていたことであった。颯真はリーナ以外の人間や動物には、関心が薄い様に思えた。
その時、突然、リーナがぶつぶつと独り言を呟き始める。
そして、勢いよく立ち上がり、近くにある机の上にあった紙とボールペンに何かを書き始める。
「ど、どうしたというのだ?」
「これを受け取って。内容を覚えておいて欲しいの。このルートを使えば、普通の魔法でも地球に行けるはず」
リーナは書いた紙を手渡してくる。そこには、三つの星が描かれていた。
「これは何なのだ?」
セシルが問いかけると、リーナは、それが地球に移動するまでのルートだと告げてくるる。
「どこで知ったのだ?」
「青い結晶が教えてくれた・・・」
リーナの言葉にセシルの背筋に寒いものが走る。結晶と話せる訳がないのだ。意識が朦朧としているのだろうか。または何かしらの幻聴を聞いているのだろうか。ただ、颯真も結晶が話しかけると言っていた。一部の結晶で人語を話す物があるとでも言うのか。
「ねえ。私が死んだら、この青い結晶をそのルートで地球に持っていって欲しいの」
「馬鹿を言うではない。例え、その結晶の魔法をつかえば病は治るのだ」
「ううん。青い結晶が言っている。赤い結晶の代償はどんな手段でも取り消せないって…」
赤い結晶の代償は知っている。しかし、彼女は赤い結晶を使用する様な愚かな人間ではない。だが、一つ気になる事がある。颯真の存在だ。彼が代償として、リーナの健康を捧げたと言うのだろうか。いや、それも考えられない。
「代償だろうが何だろうが治るのだ」
「地球に持ち帰ったら、フリーエネルギーを消すために魔法を使って欲しい。地球だけじゃない。この世の中から消して欲しい。その魔法を使うのと、地球へ移動をするのを考えると、膨大なフリーエネルギ―の蓄積が必要みたい。千年近い時間かな? 酷いと思うかもしれないけど、貴方にしかお願い出来ない・・・」
「勝手な願いだ!」
「貴方にしかお願い出来ないの・・・」
名前を言えばセシルは言うことを聞くだろう。ただ、リーナがそれを使うことは無かった。ただ、これは彼女の最後の願いになるかもしれない。
「・・・万に一つも無い事だが、そういう事があったら約束しよう…」
「ありがとう・・・」
「もういい。寝ろ。まだまだ、病を治す方法はたくさんあるのだ。病を治してから、一緒に人を救おう」
セシルがそう言うと、リーナは安心したように目を瞑る。